日の丸滑走隊轟沈!2回目のFIA-IDCはロシアのゴーチャが優勝

それは前夜行われた、D1グランプリ最終戦の記者会見で質問者からの「翌日のFIA-IDCに出場されますが、その意気込みを教えてください」という問いに対して、川畑真人選手の答えから端を発する。

「明日はこの中の殆どが途中で負けることになる。いつもならそれで終わりだが、互いに応援する必要がある。世界と戦う上で、僕たちは団結しなければならないし、日の丸を背負う覚悟をしなければならない」。時々唇を噛み締めるように重く、しかし力強い口調で語る川畑は、どこか悲壮に満ちていた。

続く横井選手も「チャンピオンを取って喜んでいる場合ではない。日本のドリフトが世界に遅れていることは肌身をもって知っている。再び日本が、そしてD1が「WORLD No.1 DRIFT」であることを証明するのがこの戦いだ」。

末永選手も「ドリフトは日本の国技だと思っている。国技である相撲はモンゴルをはじめとする海外選手が活躍している。ドリフトはそうではないところを、見せつけなければならない」。

昨年の王者である川畑選手がそう切り出したのには理由がある。彼らがロシアや中国のD1シリーズに参戦しているというのもあるが、今年からFIA-IDCのルールが変更され、3人の審判団によるヒューマンジャッジを採用したのだ。「DOSS攻略」という言葉があるように、D1が採用するジャッジシステムDOSSは基本的にインカットをしないで角度をつければ高得点が得られる。いっぽうのヒューマンジャッジの場合、インカットだけではなくアウト側のホワイトラインにどれだけ近づけられるか、より大きなドリフトの弧をスムーズかつダイナミックに描けるかに重きが置かれ、芸術性が問われるのだ。海外勢は、このようなジャッジシステムに慣れているが、普段「DOSS攻略」に勤しむ彼らには、たとえ慣れているお台場であっても、一気にハードルが上がってしまうのだ。

大会前、プロモーターである齊田功社長に話を伺うことがあった際、日本人選手が有利になるのではないか? と訪ねたことがある。この時はヒューマンジャッジになるということは発表されていなかったのだが、齊田氏は「例えばF1の鈴鹿グランプリで日本人選手が有利かというと、そのようなことがないのは歴史が証明している。それと同じで、今年は誰が勝つか本当にわからない大会になる。誰が有利、不利というのはなくなる」という趣旨の発言があり筆者は困惑した。 そして11月4日、悪夢が起こった。日本人選手が全滅したのだ。

滑りやすい路面にアウトクリップ。横井がまず餌食となる

午前中の練習走行から不安の予兆があった。まずAグループの川畑が、1コーナーのアウト側コンクリートウォールにリアをヒットさせる。バンパーが外れる程度で済んだものの、大事を取ってその後の走行をキャンセル。

続いてBグループの横井が1走目で1コーナーの餌食になったのだ。意識してアウト側に車を寄せるようなドリフトを行った際に、そのままテールをヒット。さらにフロント部分にまでダメージが及んでしまった。

昨日シリーズチャンピオンを獲得したリアにラジエーターを搭載するニューマシンは、無残な姿となってピットへ戻り、大会開始までの僅かな時間の中で、足廻りやリアの修繕を行うこととなった。

いっぽう、藤野は優勝候補の1人、ロシアのゴーチャと追走の練習を実施。しかしインを付かれるような動きも見え不安を感じさせた。

Cグループの末永は、手首を痛めているためか、アウトクリップをかすめるような走りができていなかった。

単走は露ゴーチャの勝利。日本人選手表彰台に挙がれず

こうして始まった単走決勝。空には厚い雲が立ち込め、時折小雨が降るコンディション。Aグループの川畑は、1本目は70点台と低調。速度やダイナミックな走りよりも、滑らかさを重視するようだ。川畑は点数が出なかった事によって即座に修正。ダイナミックな走りに変更して85点を獲得。Aグループのトップに立つ。

Bグループ最初の出走は横井。メカニックの必死の作業によって一見治ったかに見えたクルマは、再び1コーナーのウォールへと吸い込まれていった。これを受け、横井はリタイアを宣言。

藤野は安定の走りをするものの、滑りやすい路面を意識しすぎたか、86点と低調。

しかし、ロシアのゴーチャが2本めに95点という圧倒的な得点を叩き出してトップ。ここで勝負が決まった。

続いてCグループの末永。しかし雨が強くなり路面は完全にウェット。白煙よりも水しぶきが見えるような状態の中で86点をマークしたが、これで日本人選手の単走優勝は潰えた。

さらに、スイスとチェコの選手が88点を出しており、なんと日本人がトップ3にも入れないという結果に終わった。

世界の壁の厚さを実感。日の丸が掲揚されることはなかった

午後に行われた追走は、ロシア勢、日本勢とも順当に勝ち進む。しかし小雨によって滑りやすくなった路面は、まず藤野に襲いかかり、同じコーナーで2回ともスピンを期す。

しかし、相手もインカットなどのミスを起こしていたことに助けられ、両者とも0点。単走での走りが基準となり藤野が勝ち上がった。 ベスト8戦はゴーチャとアルカーシャによるロシア勢同士の対決に注目が集まった。昨年2回も再戦をしたこの組み合わせ。この大会で一番の実力者同士のぶつかり合いは、アルカーシャのマシンが本調子ではなかったこともあってか、勝負はゴーチャに軍配。

続く対戦は藤野と末永の日本人対決。ここは末永が安定した走りで勝利を納めた。

いっぽう、川畑は格下の相手との戦いであったが、なんとデフブローでマシンを止めてしまう。車内でハンドルを何度も叩きながら、悔しさを爆発させていた。

残った日本勢は末永ただ1人。末永の準決勝の相手はロシアのゴーチャ。

この戦いは、熾烈を極め、一度の対戦では勝負がつかずにONE MORE TIME。再戦ではゴーチャが末永に対して見事な寄せをみせて勝利をもぎ取る。

ゴーチャはそのまま勝ち進み、単走に続き追走も優勝を納め、初の単走・追走Wチャンピオンの座に輝いた。

いっぽうの末永は、なんと3位決定戦でも敗れるという波乱。日本勢が表彰台に上がることは叶わなかった。

勝ったゴーチャは「一生忘れられない結果です。ベスト8でチームメイトとぶつかったのが残念ですが、一試合一試合全力でぶつかりました。車がこのコースに合っていたのも良かった。アルカーシャとの戦いは、チームメイトではあるけれど、FIA-IDCに来た選手の中で一番強豪だと思っていた。早い段階で当たるのは嫌だったけれど、前回のFIA-IDCで負けているので、勝つつもりで、思いっきりぶつかった。末永との準決勝は、最初の対決で降り出したところで接触があったが幸い大きな事故にはならなかった。2回目は末永の癖を把握していたのが良かったと思う。今は来年のことは考えていないのですが、来シーズンの成績次第ですし、来年はロシアと中国の両シーズンを走りたいと思っているし、FIA-IDCで走りたい」と優勝の喜びを表していた。

こうして日の丸滑走隊は4人全滅し、表彰台に上がることすらかなわず、奇しくも横井選手が言っていた「世界に取り残されている」ことが証明された結果に終わった。しかし分析はできているということ。1984年に日本で生まれたドリフト。そのレベルがより一層向上し、日本が再びNo.1になることを願いたい。

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